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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)197号 判決 1997年10月08日

ドイツ連邦共和国

デー-41199 メンヘングラドバッハ ドゥベンシュトラーセ 82-92

原告

ツリュツラー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト

代表者

マルチン ヴィルク

ウルリッヒ フォルラト

訴訟代理人弁護士

宇井正一

同弁理士

戸田利雄

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

河合厚夫

小原英一

吉村宅衛

小川宗一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成7年審判第3999号事件について、平成8年2月27日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文1、2項と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、1985年12月21日にドイツ連邦共和国でした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和61年10、月20日、名称を「列をなして据えられている紡績材料の俵から材料を取り出す装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(特願昭61-247648号)をしたが、平成6年11月9日、拒絶査定を受けたので、平成7年3月6日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成7年審判第3999号事件として審理したうえ、平成8年2月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月11日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨(特許請求の範囲第1項記載のとおり)

キャリジによってガイドレールに沿って往復移動可能なスタンドに、たとえば掻取ローラのような掻取装置を有し移動方向に対して横へ延びるジブが設けられており、かつスタンドが移動路の一端で180°回転可能にキャリジ上に配置されており、この場合にスタンドにはこのスタンドを180°回動させるための駆動装置が設けられている、混合を行うために俵の上側から掻き取ることによってたとえば木綿、合成繊維材料等の紡績材からなり列をなして据えられている材料を取り出す装置において、駆動装置(8)としてスタンドを回転させるための回転数制御のエレクトロモータ(9)が用いられ、このエレクトロモータを所定のモータ回転数に連続的に調整するための制御装置(14)と接続されていることを特徴とする列をなして据えられている紡績材の俵から材料を取り出す装置。

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、周知技術を勘案すると、本願の第1国の出願日前に日本国内において頒布されたことが明らかな刊行物である特開昭58-169523号公報(以下「引用例」といい、そこに記載された発明を「引用例発明」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明及び引用例発明の要旨の認定、本願発明と引用例発明との一致点及び相違点の認定、周知事項(審決書6頁16~18行)及び技術常識(同7頁4~6行)の認定は、いずれも認める。

審決は、本願発明の顕著な作用効果を看過する(取消事由1)とともに、本願発明と引用例発明との相違点1、2についての判断を誤った(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  本願発明の作用効果の看過(取消事由1)

本願発明は、列をなして据えられている紡績材の俵から材料を取り出す装置において、スタンド(タワーと同義)の迅速な回転を可能とするものであり、前示本願発明の要旨の構成、特に「駆動装置(8)としてスタンドを回転させるための回転数制御のエレクトロモータ(9)が用いられ、このエレクトロモータを所定のモータ回転数に連続的に調整するための制御装置(14)と接続されている」構成を採用することにより、本願明細書に記載された(a)「本発明に基づく装置によれば、タワーの回転運動が急速にスタートし、始動と制動の衝撃が防止される。」、(b)「回転の全経過の間、加速相、回転相及び制動相において所定の加速を超過しないように計算される。」、(c)「各運動相における駆動装置の回転数がマイクロプロセッサによって電気的回転数調整器に予め与えられるという形で連続的に制御される。加速相においても制動相においても一定ないしほぼ一定の加速が維持される。」、(d)「本発明によれば回動時間が削減され、開俵機の生産量が増大する。他の利点は、タワー駆動用モータの加速相(第1相)、主要相(第2相)及び制動相(第3相)での回転数を連続的に調整することにより、タワーを衝撃なしでスタートしかつ停止することができることである。このことによって機械全体が、特に摩耗の減少に関して保護される。」、(e)「エレクトロモータ9が制御装置14に接続されているため、モータ回転数が無段階に連続して変化出来、タワーの迅速且つ連続的な回動操作が可能となる。」等の顕著な作用効果を奏するものである。

審決は、本願発明のこのような顕著な作用効果、特に(e)の「タワーの迅速且つ連続的な回動操作が可能となる」という作用効果について、「かかる効果は、モータの回転速度を低速で始動開始後高速とし、停止前に低速とする点により達成されるものと認められるが、本願発明はかかる点を構成要件としていないから、構成に基づく直接の効果ではなく」(審決書7頁18行~8頁2行)として、特許請求の範囲で特定された構成により生ずる効果でないと誤認して一方的に排除している。

しかし、本願発明は装置に関する発明であるから、特許請求の範囲で限定される構成は、明細書中に記載の作用効果を奏することができ、かつ発明の目的を達成できる装置構成であればよいのであり、実際に発明を実施するに際しては、モータ回転数は、機械のサイズ、繊維材料掻取工程の前後工程との関係速度等、装置使用者によって適宜に制御装置を介して選択決定される必要があり、本願発明にあっては、モータ回転数が制御装置によって連続的に調整できる構成であれば十分なのである。すなわち、本願発明の「所定のモータ回転数」という表現も、明細書中に記載の発明の目的及び作用効果との関係で許容された表現なのであり、前示本願発明の要旨の構成は、その明細書中に記載の作用効果を奏するに十分な構成なのである。

したがって、審決の上記判断は誤りである。

2  相違点1、2についての判断の誤り(取消事由2)

本願発明は、スタンドの迅速な回転を可能とするものであって、前記(a)~(e)記載の顕著な作用効果を奏するものであり、このような作用効果を奏するために、引用例発明との相違点1にかかる構成、すなわち、スタンドを回動させる駆動装置のモータに回転数制御のエレクトロモータを用いた点と、相違点2にかかる構成、すなわち、エレクトロモータが所定のモータ回転数に連続的に調整するための制御装置と接続されている点とを、一体不可分に結合した構成を採用したものである。

これに対し、引用例発明の課題(目的)である、「繊維層片のブレンディングの品質を著しく改善しかつ生産力の向上を可能にする」ためのスタンドの旋回に必要な時間の短縮化は、従来の手動でスタンドの解錠、旋回、ロック(施錠)を行うのに代えて、自動制御によって機械的にこれらを行うことを意味するだけであり、スタンドの旋回速度自体を高速化する思想は引用例中のどこにも開示されておらず、示唆もされていない。

また、引用例発明において、スタンドの復路は、フライス装置が何ら負荷を受けることなく単に直線軌道にそって作業開始位置まで移動するだけであるから、往路より早く移動させても問題がないが、スタンドの旋回作用は、スタンドから側方に張り出した大質量のブラケットを振りまわすので、単純に高速化すれば、大きな慣性回転力が生起し、わずか半回転(180°)の旋回運動であるのにロック機構のみならず伝達機構を含む装置そのものを破損に至らせるのであり、そのため、わずか半回転の旋回ではむしろ慣性回転力をできるだけ抑えるように静かに回動させようとするのが技術常識である。したがって、スタンドの直線長距離戻り移動とスタンドのわずかな半回転旋回運動とは、時間短縮の概念の下では異質のものであり、スタンドの不作用時の戻り移動を早くする思想がスタンドの旋回速度の高速化に直接結びつくものではない。

このように、引用例発明の、スタンドの解錠、旋回、ロック(施錠)を手動で行うのに代えて、自動制御によって機械的にこれらを行う構想と、スタンドの不作用復路の単純直線移動を作用中の往路移動より早めるという構想とだけから、当業者が、スタンドの旋回速度自体を高速化することを容易に思いつくものではない。

審決は、本願発明が上記各相違点に係る構成を採用した理由が、引用例のどこにも開示も示唆もされていない前記課題(目的)を解決するためであること、また、各相違点に係る構成を一体不可分に採用したため、前記の顕著な作用効果を奏するものであることを考慮することなく、相違点1及び2を本願発明の必須構成要件から切り離してそれぞれ産業界における一般技術として、すなわち、発明の目的及び作用効果との関連を切り離して検討し、相違点1については「引用例の発明におけるスタンドを回動させる駆動装置のモータとして、回転数制御のエレクトロモータを用いることは当業者が適宜になし得ることである。」(審決書6頁19行~7頁2行)とし、相違点2については「エレクトロモータが所定のモータ回転数に連続的に調整するための制御装置14と接続されている構成とすることは当業者が適宜になし得る設計的事項である。」(審決書7頁6~9行)と判断している。しかし、前記のように引用例に本願発明の目的も作用効果も全く開示も示唆もされていない以上、当業者が、引用例発明に本願発明の目的、作用効果を奏するための構成である相違点1及び2を付加結合した構成、すなわち本願発明を容易に想到できるとはいえない。

したがって、審決の相違点1及び相違点2についての上記判断は、誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がない。

1  取消事由1について

本願発明が、スタンドの旋回を高速とすることを目的としており、モータ回転数が無段階に連続して変化できるという効果を有することは認めるが、原告が、本願明細書に記載されていると主張する(a)~(e)の作用効果は、その発明の詳細な説明に記載されているように、加速相(第1相)、主要相(第2相)及び制動相(第3相)でのモータ回転数を連続的に調整して変更した場合、すなわち、モータの回転速度を、低速で始動開始後高速とし、停止前に低速とするような特別の回転速度(すなわち、「特別のモータ回転数」)に連続的に調整した場合に奏するものである。つまり、本願発明が、原告主張の作用効果を常に奏することができるのは、モータの回転数を「特別のモータ回転数」に限定した場合であることは明らかである。

しかし、本願発明の要旨には、「所定のモータ回転数」と示されているだけで、モータ回転数は何ら限定されていないから、本願発明は、「特別のモータ回転数」を発明の構成に欠くことのできない要件とするものではなく、明細書に記載の作用効果を常に奏することができる装置構成とはなっていない。

したがって、本願発明は、原告が主張する上記の作用効果を有するものではなく、格別の作用効果を奏するものでないので、この点に関する審決の判断(審決書7頁15行~8頁3行)に、誤りはない。

2  取消事由2について

一般に、製造装置、運搬装置、移動装置などにおいて、装置全体の効率あるいは生産効率を向上させることは常に望まれているところであり、引用例にも、解錠、旋回、ロック(施錠)を自動制御により行う手段ではあるが、スタンドの旋回操作に要する時間の削減を図ることにより、生産力を向上させることが記載されている。

そして、引用例発明において、フライス装置を装備したブラケットが一方の側から他方の側に切り替わる毎にスタンドは旋回運動するのであり、この切削作業を行わない半回転の旋回運動は、旋回回数が多く、集合的にみればそれに要する旋回時間も長時間となるのであるから、装置全体の効率、生産効率を向上させるには、スタンドの解錠、旋回、ロック(施錠)の自動制御以外にも、旋回運動(回動)時間の短縮を図ればよいことは明らかである。しかも、引用例発明では、旋回運動時と同様に切削作業が行われないスタンドの不作用戻り走行を高速で行うことにより、戻り移動の時間短縮を行っているのであるから、当業者であれば、スタンドの旋回所要時間の短縮のため、本願発明と同様にその旋回速度を高めてみようとすることは容易に予測できることである。

なお、引用例発明において、スタンドのロック(施錠)は、転動用歯環(スタンド)が旋回運動を停止してから行われることが明らかであるから、ロック(施錠)時にブラケットの大きな慣性力がロック機構に作用することはなく、スタンドの旋回速度を高めても、ロック機構、伝達機構を含む装置が破損することはない。

そして、引用例発明においてスタンドの旋回速度を高めるためには、スタンドの駆動源のモータを高速回転すればよいことは自明であり、一般に、移動機器、運搬装置などの駆動装置を高速で駆動する場合、回転数制御のモータを使用すること及び回転数制御モータを電気的制御回路で制御することが本願出願前周知であることは、原告も認めるところであり、特公昭52-35843号公報(乙第1号証)及び特開昭52-86115号公報(乙第2号証)からも明らかであるから、当業者が、相違点1及び2の構成を採用することは適宜になし得ることである。

したがって、審決の相違点に関する判断(審決書6頁15行~7頁9行)に、誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(本願発明の作用効果の看過)について

本願発明の要旨の認定、本願発明がスタンドの旋回速度の高速化をその目的としており、モータ回転数が無段階に連続して変化できるという効果を有することは、当事者間に争いがない。

また、本願明細書(甲第2号証の1、2)によれば、紡績材の俵から材料を取り出すためのスタンドは、大きな回転質量を有するので、従来、その駆動装置はゆっくりした回転速度が得られるように設計されていたが、回転時間が長いと製造時間が損失し、損失時間を減少させるためにスタンドの回転速度を大きくすると、衝撃を伴うスタートと停止が行われて、機械、特に駆動とスタンドの回転を行う部材に好ましくない負荷がかかるという欠点が存していたところ、本願発明はこれを除去することを技術的課題としており(甲第2号証の1第3頁13行~5頁5行)、この課題を解決するために、前示本願発明の要旨である「駆動装置(8)としてスタンドを回転させるための回転数制御のエレクトロモータ(9)が用いられ、このエレクトロモータを所定のモータ回転数に連続的に調整するための制御装置(14)と接続されている」構成を有するものと認められる。

そして、この構成を採用したことにより本願発明が奏する作用効果等として、本願明細書には、「タワーの回転運動が急速にスタートし、始動と制動の衝撃が防止される。」(甲第2号証の1第5頁10~11行、甲第2号証の2補正の内容(2)-1)、「回転の全経過の間加速相、回転相及び制動相において所定の加速を超過しないように計算される。」(甲第2号証の1第5頁18~19行)、「各運動相における駆動装置の回転数がマイクロプロセッサによって電気的回転数調整器に予め与えられるという形で連続的に制御される。加速相においても制動相においても一定ないしほぼ一定の加速が維持される。個々の相は次の如くである。1.回転開始及び一定の加速を伴う回転・加速相、2.一定の回転速度を有する主要相、及び3.一定の負の加速(遅延)を伴う制動及び停止相。加速相を直接制動相へ移行させることも可能であり、この場合に両相において一定の加速で走行が行われる。」(同号証6頁2~15行、甲第2号証の2補正の内容(2)-2)、「本発明によれば回動時間が削減され、開俵機の生産量が増大する。回転損失時間は減少するので、生産能力が増大する。他の利点は、タワー駆動用モータの加速相(第1相)、主要相(第2相)及び制動相(第3相)での回転数を連続的に調整することにより、タワーを衝撃なしでスタートしかつ停止することができることである。このことによって機械全体が、特に摩耗の減少に関して保護される。」(甲第2号証の1第6頁19行~7頁4行、甲第2号証の2補正の内容(2)-3)、「エレクトロモータ9が制御装置14に接続されているため、モータ回転数が無段階に連続して変化出来、タワーの迅速且つ連続的な回動操作が可能となる。」(同号証10頁3~4行、甲第2号証の2補正の内容(2)-4)と記載されている。

これらの記載によれば、本願発明は、スタンドを迅速かつ連続的に回動させて生産能力を増大させるという一般的効果を有するとともに、そのために、モータ回転数が無段階に連続して変化できるように制御するという効果を奏するものと認められるが、それだけでなく、スタンド駆動用モータの回転数を加速相(第1相)、主要相(第2相)及び制動相(第3相)と連続的に調整し、あるいは、加速相を直接制動相へ移行させることとし、その間ほぼ一定の加速を維持することにより、スタンドの始動と制動の際の衝撃が防止され、機械全体が摩耗の減少に関して保護されるという効果も奏するものとされていると認められる。

そして、これらの効果の内、スタンドの迅速かつ連続的な回動やモータ回転数の無段階的な連続制御という効果は、高速回転が可能な回転数制御のエレクトロモータとこれに接続されている回転数調整のための制御装置という前示の本願発明の構成によってもたらされるもの認められる。

しかし、スタンド駆動用モータの回転数を加速相、主要相及び制動相の3相又は加速相と制動相の2相と連続的に調整することに基づいて達成される効果については、前示本願発明の要旨に示されているとおり、本願発明ではスタンド駆動用モータの回転数を3相又は2相に制御するべきことを構成要件として規定するものではないことが明らかである。すなわち、本願発明においては、運動相が常に3相又は2相であるとはいえないのであるから、前示連動相が3相又は2相の場合に生ずる効果は、本願発明の実施形態として、このように制御した場合に限っての効果にすぎず、本願発明の要旨に基づき必ず生ずる効果ということはできない。審決が、「本願発明はかかる点を構成要件としていないから、構成に基づく直接の効果ではなく」(審決書8頁1~2行)としたのは、この趣旨であると認められる。

したがって、この点に関する審決の認定(審決書7頁15行~8頁2行)に誤りはない。

2  取消事由2(相違点の判断の誤り)について

引用例発明の要旨の認定、本願発明と引用例発明とが、「本願発明は、スタンドを回動させる駆動装置のモータに、回転数制御のエレクトロモータを用いているのに対して、引用例には、駆動装置のモータの回転数制御について記載されていない点」(相違点1)及び「本願発明は、エレクトロモータが、所定のモータ回転数に連続的に調整するための制御装置と接続されているのに対して、引用例には、モータの回転数制御について記載されていない点」(相違点2)で相違するが、その余の点で一致すること、「モータを使用する駆動装置の速度を調節するため、あるいは加減速を滑らかにするために、回転数制御されるモータを使用することは周知である」(審決書6頁16~18行)こと、「電気的制御回路により、モータの回転数を連続的に調整することはモータにおける技術常識である」(同7頁4~6行)ことは、いずれも当事者間に争いがない。

本願発明は、前示のとおり、その発明の要旨に基づき、スタンドを迅速かつ連続的に回動させて生産能力を増大させるという効果を有するとともに、そのために、モータ回転数が無段階に連続して変化できるように制御するという効果を奏するものと認められる。

これに対し、引用例発明について、引用例(甲第3号証)に、『「整列された木綿、合成繊維材料などの紡績原料ベール列から紡績原料を切り出す装置であって、キャリッジを介してガイドレールに沿って往復走行可能なスタンドが、走行運動方向に対して直角な横方向に延びていてフライス装置を装備したブラケットを有し、前記スタンドが走行運動路の端部において前記キャリッジ上で180°旋回可能に配置されている形式のものにおいて、スタンド(1)、該スタンドを180°回動させるための駆動装置(20)を備えており、かつこの回動用駆動装置(20)のために、プログラミング可能な制御装置(26)が設けられていることを特徴とする、ベール列から紡績原料を切り出す装置」(特許請求の範囲第7項)、「回動用駆動装置(20)が、駆動可能なピニオン(23)と噛み合う転動用歯環(25)を有し、かつスタンド(1)が、ロック機構(28)によって自動的に位置固定可能に構成されている、特許請求の範囲第7項記載の装置」(特許請求の範囲第8項)」』(審決書3頁12行~4頁10行)との記載があることは、当事者間に争いがなく、そのほか「フライス装置を装備したブラケツトを塔形上構部の走行運動路の一方の側から他方の側へ手動で旋回させる操作は煩雑で比較的多くの時間を必要とする。それというのは、先ずロツクを手で解錠する必要がありかつ切換旋回位置で前記ブラケツトは改めてロツクされねばならないからである。」(甲第3号証2頁右下欄2~8行)、「本発明の課題は、冒頭で述べた形式の切り出し方法及び装置を改良して連続操作で切り出された繊維層片のブレンデイングの品質を著しく改善しかつ生産力の向上を可能にすることである。この課題を解決する本発明の方法の要旨とするところは、ベール列の切り出し工程中における一方のベール列から他方のベール列へのフライス装置の切換旋回を自動制御によつて行なう点にある。往復走行可能なスタンドに設けたフライス装置を旋回させるために自動制御を適用することによつて、フライス装置を、一方のスタンド側のベール列に沿つての各全面走行終了毎に他方のスタンド側のベール列へ旋回させることが可能になる。これによつて、ブレンデイングのために加工されるベール数は倍増されかつスタンドの両側にあるベール列が切り出し装置において均等に切り出されるので、すべてのベールの繊維層片が混合装置に供給される。」(同号証3頁左上欄16行~右上欄15行)、「本発明の実施態様では、両ベール列における各全面走行終了毎にフライス装置の不作用戻り走行を両ベール列に関して行なうことも可能であり、しかもこの不作用戻り走行は周知のように速度を高めて行なわれる。これによつて両方のベール列から切り出す際に常にコンスタントな混合比が同一操作によつて維持される。」(同3頁右下欄8~14行)との記載がある。

これらの記載によれば、従来の切り出し装置では、フライス装置を装備したブラケットを走行運動路の一方の側から他方の側へ手動で180°旋回させる操作は、ロックを手で解除し切換旋回位置で改めてロックしなければならないから、煩雑で比較的多くの時間を必要としていたのに対し、引用例発明は、一方のベール列から他方のベール列へのフライス装置の切換旋回を自動制御により行うこととして所要時間を短縮した結果、一方のベール列のベールだけから切り出す方法の改良が可能となり、これによってブレンディングのためのベール数を倍増するとともに両側にあるベール列から均等に繊維層片が切り出されて混合装置に供給されるので、ブレンディングの品質が著しく改善され、生産力も向上したものと認められる。また、両ベール列の全面走行終了後ごとに行うことができるフライス装置の不作用戻り走行は、速度を高めて行うことが可能であり、この結果、フライス装置の不作用時間の短縮が実現しているものと認められる。

以上のことによれば、引用例発明は、ブレンディングの品質改善や生産力の向上の観点から、従来手動で行われていたスタンドの旋回に伴う解錠、旋回、ロック(施錠)の作業を自動制御で行うことにより、その旋回を迅速化するとともに、スタンドの不作用戻り走行を高速化するものであるから、スタンドの直線移動及び旋回の迅速化とその所要時間の短縮化は当然の技術思想とされているものと認められる。

原告は、引用例発明のスタンドの旋回作用は、大質量のブラケットを振りまわすので、単純に高速化すればロック装置等の破損に至るから、慣性回転力をできるだけ抑えるように静かに回動させるのが技術常識であると主張する。

この点について、引用例(甲第3号証)には、「ロツク機構28はピン29、30を有し、該ピンは転動用歯環25に配置されている。前記の回動可能なスタンド1内には、回転可能に支承されたフオーク状の爪31が設けられている。爪31のロツク位置では、ピン30において鎖線で示したように爪のフオーク脚は運動方向に対して横向きに位置している。ピン29では爪31は開放位置にある。」(同号証4頁右下欄7~14行)と記載され、その図面第4図に、右側位置ではフォーク爪31がピン29に対し開放位置にあって解錠され、左側位置ではフォーク爪がピン29に対し横向き位置に変更されて係合しロック(施錠)されている状態が示されている。

これによれば、引用例のスタンドのロック(施錠)は、転動用歯環(スタンド)が旋回運動を停止してから行われるものと認められるから、ブラケットの有する大きな慣性力は、ロック(施錠)時にロック機構に影響を及ぼすことはなく、引用例発明におけるスタンドの旋回の高速化という技術思想を妨げるものではないから、原告の上記主張は採用できない。

以上のとおり、引用例発明は、スタンドの旋回の迅速化とその所要時間の短縮化を技術思想とするものであるから、その実現のために、前示当事者間に争いがない「モータを使用する駆動装置の速度を調節するため、あるいは加減速を滑らかにするために、回転数制御されるモータを使用する」という周知技術及び「電気的制御回路により、モータの回転数を連続的に調整する」という技術常識を適用し、引用例発明におけるスタンドを回動させる駆動装置のモータとして、回転数制御のエレクトロモータを用いるとともに、当該エレクトロモータが、所定のモータ回転数に連続的に調整するための制御装置と接続されている構成とすることは、当業者が適宜になしうることと認められる。

そして、このような構成を採用した結果、引用例発明は、本願発明と同様に、モータ回転数が無段階に連続して変化できるという効果を奏するとともに、スタンドを迅速かつ連続的に回動させ、その生産能力を増大させるという効果を奏するものであり、この場合、エレクトロモータが、所定のモータ回転数に連続的に調整するための制御装置と接続されている構成が採用されているのであるから、これにより、スタンド駆動用モータの回転数を加速相、主要相及び制動相という3相又は加速相及び制動相という2相に制御することとすれば、本願発明の3相又は2相に制御することとした実施態様が持つ効果が得られることも明らかである。審決が、本願発明のこの効果につき、「本願発明の効果は格別のものではない」(審決書8頁3行)としたのは、この趣旨であると認められ、この点に誤りはない。

したがって、審決の相違点に関する判断(審決書6頁15行~7頁14行)は、正当である。

3  以上のとおり、原告の取消事由の主張はいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成7年審判第3999号

審決

ドイツ連邦共和国、デー-4050 メンヘングラドバッハ 3、ドゥベンシュトラーセ 82-92

請求人 ツリュツラー ゲゼルシャフト ミツト ベシュレンクテル ハフツング ウント コンバニー コマンディトゲゼルシャフト

東京都港区虎ノ門3丁目5番1号 虎ノ門37森ビル 青和特許法律事務所

代理人弁理士 石田敬

東京都港区虎ノ門3丁目5番1号 虎ノ門37森ビル 青和特許法律事務所

代理人弁理士 西舘和之

東京都港区虎ノ門3丁目5番1号 虎ノ門37森ビル 青和特許法律事務所

代理人弁理士 戸田利雄

東京都港区虎ノ門3丁目5番1号 虎ノ門37森ビル 青和特許法律事務所

代理人弁理士 山口昭之

東京都港区虎ノ門3丁目5番1号 虎ノ門37森ビル 青和特許法律事務所

代理人弁理士 西山雅也

昭和61年特許願第247648号「列をなして据えられている紡績材料の俵から材料を取り出す装置」拒絶査定に対する審判事件(昭和62年7月11日出願公開、特開昭62-156317)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

1. 手続きの経緯、発明の要旨

本願は、西暦1985年12月21日にドイツ連邦共和国にした特許出願に基づいて、パリ同盟条約による優先権を主張して、昭和61年10月20日に出願されたものであって、その発明の要旨は、補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものであると認める。

「キャリジによってガイドレールに沿って往復移動可能なスタンドに、たとえば掻取ローラのような掻取装置を有し移動方向に対して横へ延びるジブが設けられており、かつスタンドが移動路の一端で180°回転可能にキャリジ上に配置されており、この場合にスタンドにはこのスタンドを180°回動させるための駆動装置が設けられている、混合を行うために俵の上側から掻き取ることによってたとえば木綿、合成繊維材料等か紡績材からなり列をなして据えられている材料を取り出す装置において、駆動装置(8)としてスタンドを回転させるための回転数制御のエレクトロモータ(9)が用いられ、このエレクトロモータを所定のモータ回転数に連続的に調整するための制御装置(14)と接続されていることを特徴とする列をなして据えられている紡績材の俵から材料を取り出す装置。」

2. 引用例

原査定の拒絶理由中に引用された、本願の第1国の出願日前に、日本国内において頒布されたことが明らかな刊行物である、特開昭58-169523号公報(以下、これを引用例という。)には、

「整列された木綿、合成繊維材料などの紡績原料ベール列から紡績原料を切り出す装置であって、キャリッジを介してガイドレールに沿って往復走行可能なスタンドが、走行運動方向に対して直角な横方向に延びていてフライス装置を装備したブラケットを有し、前記スタンドが走行運動路の端部において前記キャリッジ上で180°旋回可能に配置されている形式のものにおいて、スタンド(1)、該スタンドを180°回動させるための駆動装置(20)を備えており、かつこの回動用駆動装置(20)のために、プログラミング可能な制御装置(26)が設けられていることを特徴とする、ベール列から紡績原料を切り出す装置」(特許請求の範囲第7項)、

「回動用駆動装置(20)が、駆動可能なピニオン(23)と噛み合う転動用歯環(25)を有し、かつスタンド(1)が、ロック機構(28)によって自動的に位置固定可能に構成されている、特許請求の範囲第7項記載の装置」(特許請求の範囲第8項)等が記載され、

ここで、回動用駆動装置20のモータ21がプログラミング可能な制御装置26を備えていることについて、「特に第3図及び第4図から判るようにスタンド1は、該スタンドをブラケット5と共に少なくとも180°往復回動させるための駆動ユニット20を装備している。該駆動ユニットのモータ21は伝動装置22を介してピニオン23を駆動し、該ピニオンはキャリッジ2と固定結合された転動用歯環25の内歯24と噛み合っている。スタンド1の内部にはモータ21用のプログラミング可能な制御装置26が配置されている。」(4頁左下欄16行~右下欄4行)が記載されている。

3. 対比

本願発明と引用例に記載されている発明とを対比すると、本願発明の掻取装置は引用例の発明のフライス装置に、ジブはブラケットに相当するから、両者は、「キャリジによってガイドレールに沿って往復移動可能なスタンドに、たとえば掻取ローラのような掻取装置を有し移動方向に対して横へ延びるジブが設けられており、かつスタンドが移動路の一端で180°回転可能にキャリジ上に配置されており、この場合にスタンドにはこのスタンドを180°回動させるための駆動装置が設けられている、混合を行うために俵の上側から掻き取ることによってたとえば木綿、合成繊維材からなり列をなして据えられている材料を取り出す装置において、駆動装置としてスタンドを回転させるためのエレクトロモータが用いられ、このエレクトロモータ各制御する制御装置と接続されている、列をなして据えられている紡績材の俵から材料を取り出す装置」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1; 本願発明は、スタンドを回動させる駆動装置のモータに、回転数制御のエレクトロモータを用いているのに対して、引用例には、駆動装置のモータの回転数制御について記載されていない点。

相違点2; 本願発明は、エレクトロモータが、所定のモータ回転数に連続的に調整するための制御装置と接続されているのに対して、引用例には、モータの回転数制御について記載されていない点。

4. 当審の判断

そこで、上記相違点について検討する。

相違点1について

モータを使用する駆動装置の速度を調節するため、あるいは加減速を滑らかにするために、回転数制御されるモータを使用することは周知であるから、引用例の発明におけるスタンドを回動させる駆動装置のモータとして、回転数制御のエレクトロモータを用いることは当業者が適宜になし得ることである。

相違点2について

電気的制御回路により、モータの回転数を連続的に調整することはモータにおける技術常識であるから、本願発明のように、エレクトロモータが所定のモータ回転数に連続的に調整するための制御装置14と接続されている構成とすることは当業者が適宜になし得る設計的事項である。

そして、本願発明の、モータ回転数が無段階に連続して変化できるという効果は、技術常識であるモータの回転数制御に関する技術を採用することにより当然予測されることであるから、格別の効果ではない。

また、本願発明の、タワーの迅速かつ連続的な回動操作が可能となるという効果についてみると、発明の詳細な説明の記載(明細書6頁5~20行、9頁10行~10頁2行)から、かかる効果は、モータの回転速度を低速で始動開始後高速とし、停止前に低速とする点により達成されるものと認められるが、本願発明はかかる点を構成要件としていないから、構成に基づく直接の効果ではなく、結局、本願発明の効果は格別のものでない。

5. むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、周知技術を勘案すると、当業者が引用例に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成8年2月27日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

請求人 被請求人 のため出訴期間として90日を附加する。

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